197 オオハクチョウの大足

オオハクチョウ 昭和新山近くの沼地に、オオハクチョウが来ている。体重はおよそ10kg。米の大袋の重さだ。その気になったらそばにいるカルガモなど踏み潰されそうだ。飛ぶ鳥としては最重量級で、そのための翼の力はひときわ強く、ボートを漕いでいて頭上を飛ぶオオハクチョウに出会うと、その羽音に思わず身を屈めてしまう。野生の命は力強い。水掻きのついた大きな黒いカンジキ足は雪上で力を発揮し、他を寄せ付けない。

196 銛をうつ淑女

Dr. Eugenie ClarkBSアーカイブスでユージニー・クラークさんの姿を見つけた。ニューギニアの奇妙な魚、コンビクトフィッシュのドキュメンタリーフィルムだった。海洋生物学者で母親は日本人。「銛をうつ淑女」(1954発行)で知ってからの、私の憧れの人であった。お会いしたことは無いけれど。

半世紀前、フォルコ・クイリチの「青い大陸」、クーストーの「沈黙の世界」が上映され、日本中の海好きはみんなこれにやられてしまった。私も“もぐり”が好きだったので1967年、潜水士の資格を取った。それまでのヘルメット潜水ではなく、スキューバ潜水での日本で初回の潜水士免許証交付だったと思う。しかし、教員になったばかりだったし金も無かったので、殆ど素潜りだった。軟体動物の分類を研究テーマにしていて、三浦半島、伊豆や三宅島で水深20mまでを潜っていた。年中、海に浸かっていた時代だった。

あれから幾星霜、“銛をうつ淑女”も銀髪となり、でも実に生き生きとして魅力を失っていなかった。2008年には、優れたフィールド研究者に贈られる Explorers Club Medal を受賞したという。

かく言う私は夏には洞爺湖で少しだけ潜って遊んでいる。今年あたりは有珠の海へ遠征しようか。

195 岩と水と空と

洞爺湖 湖底の岩盤を見透す鮮烈な水に冬の雲が映っている。誰とも出会わない湖畔をゆっくり歩く。音も聞こえず、時もとまったままだ。

一万年の前にも、ここにはこの風景があった。

194 寒中の冷燻

サクラマス、ヒメマス、ベーコンのスモーク この時期はサクラマスの季節。室蘭沖でよい型が上がっている。60cm位のが一尾五、六百円だ。洞爺湖産の立派な冷凍ヒメマスも入手出来たので、ともにフィレにしソミュール液に漬け、風乾して冷燻にする。夏の冷燻は無理だが今の-3℃での30℃前後での温度管理はこれまた難しい。最下段に置いたこの地方自慢の豚肉は冷燻終了後、そのまま温燻に移行しベーコンとする。これらは明後日の昭和新山国際雪合戦会場で提供されるピザに使われる。

192 アカミヤドリギ

アカミノヤドリギ 厚い雪雲がひと塊り日本海から飛んで来て、午後2時から3時までの間に5cm程の雪を積もらせた。春めいた陽射しだったのに、昼ドラ一本分、気を抜いた間の午後の一発芸。お陰で、ナナカマドのヤドリギも淡雪を纏ってこの通り。クリスマスならお似合いの風情だが、この時期になると赤い実も腹の空いた野鳥の腹に収まって、もの足りない。でも、ひとしきりいい雪だった。

191 あられ氷・真砂仕立て

洞爺湖岸の氷  明け方にかけ、毎朝きまって-10℃前後に冷え込む洞爺湖畔。砂粒を閉じ込めて凍りついた氷を見つけた。透明無垢、清冽な水が、強い風の下で飛沫とともに砂の粒子を巻き込みながら、瞬時に凝結したのであろう。天然の純正な素材が、妥協ぬきの過酷な経過の中で作り上げた冬のデザートの逸品。真実の味を求める御諸賢、寒気と水と岩石の味を賞味あれ。

190 白きたおやかな峰

徳舜別山(左)ホロホロ山 落輝を映して淡く暮れかかる双耳峰、徳瞬瞥山(1.309m、左)とホロホロ山(1322m)。壮瞥から遠望するこの山はオロフレ山、来馬山と長い稜線で繋がり、これらはいずれも70万年-60万年前に噴火した第4紀の火山である。徳瞬瞥山とホロホロ山はその秀麗な姿と自然の豊かさから愛好家に慕われてきた。厳冬期の今は、ただ輝くその姿をほれぼれと仰ぎ見るだけだ。

188 吹雪の幕間

吹雪の合間に 昨日は低気圧が北海道を横切って、酷い荒れ模様になった。有珠山の麓、壮瞥町でも20cmほどの積雪があり、一夜明けての大有珠山頂は見事な白銀の世界となった。しかし、日本海からの雪雲は、積丹を潰し羊蹄山を痛めつけ、撮影直後には昨日同様有珠山を吹雪のベールで覆ってしまった。 あとひと月もすると春分で、南からは梅の花の便りも聞かれるが、まだまだ春は先のことらしい。

187 ニョロニョロ

氷筍 -15℃、吹雪の中を伊達市大滝の円山の通称ニョロニョロの洞窟へと向かう。火山マイスター7名参加で、「大滝アウトドアアドベンチャーズ」の坂井さん、服部さんのガイドで、周辺の自然の説明を受けながらのスノ―シュートレッキングとなった。行程は片道2.5km、往復3時間、雪原と疎林の中、雪を踏みしめひたすら歩く。以前から一度は、と思っていた洞窟の奥での氷筍の見事さはさすがに圧倒的だった。氷筍は-2℃~-5℃の多湿な環境の中、天井からの水滴を受けて育つという。洞窟の奥は幾分気温が高いようで、カメラのレンズが瞬時に曇った。外の外気との差が、いくつもの微妙な条件の中で氷筍は滴りを受け氷結し、生長し、昇華して痩せる。秀麗な火山、徳瞬別岳の自然が育んだ冬季限定の造形の不思議世界だ。

魅力的な体験が出来るが、洞窟内がそれほど広くないこと、氷筍の脆弱さを考えるとオーバーユースに配慮しなければならない。アプローチ地点での駐車スペースがないことや私有地を通過することを考慮して、地域公認のガイド同行が好ましい。

186 日暈(にちうん)

日暈 柔らかな光が満ちてはいるが、まだ1月末の寒さが身につたわる。見上げた空に大きな日暈が出来ている。上空の細かい氷晶が太陽光で屈折され、太陽の周囲に大きな輪となる、比較的通常の物理的現象。この大きさは太陽を中心に半径22度の内暈(ないうん)が一般的で(22-degree halo)、外暈と呼ばれるものは46度だそうである。目安になるものが無い中空でとても大きく見える。夜空の星を説明する尺度でいうと、手をいっぱいに伸ばして親指とひとさし指いっぱいの間隔を二つと、握りこぶし一つ並べた角度だ。画像に収めたいと思い最良の場所を探した。噴火湾に臨む伊達製糖所の、冬、いつも見る白い蒸気がアクセントになる位置まで近づき、シャッターを切った。