117 森の「オーイ」

「おーい」のミズナラ ここは洞爺湖中島、夜は無人だ。昼間はフットパスをめぐる人たちの声や島へ往復する観光船の音が遠くから聞こえるが夜は静寂そのもの。深い森に夕闇が迫る頃、樹々たちは太い声で話し始める。先ずはこの樹がひとこえ呼びかける。「おーい」。

 口を大きく開いて「おーい」と呼びかけている太いミズナラの古木。中は洞になっていて、この口に顔を入れて「オーイ」とさけぶと「オーイ」と反響する。この森の妖精「オーイ」のミズナラ。葉はふさふさと茂り、まだまだ壮健で樹皮もしっかりしている。しかし、子は無い。種子のドングリも芽を出した若木もみんなシカが食べてしまう。このままでいくとこの樹は一代限り。こんな古木がたくさんある。今夜も叫んでいるよ「オーイ、何とかしてくれー」

116 トチノキ婆さん

トチノキ婆さん アイヌ語ではトチの実を「トチ」、幹を「トチニ」と言うそうだ。縄文の時代からその実も材も生活に繋がっていた。実は食料に幹は臼や杵になったと言う。洞爺湖中島のフットパスでトチの実やその厚い殻皮が落ちていたらその斜面にはきっと大きなトチノキが有る。トチの老木を見つけ皆で記念写真を撮った。トチは灰汁抜きが難しく食料としては日常から姿を消したがフィールドでの存在感は抜群だ。トチノキのお婆さん、おいしいトチ餅を御馳走してよ。

114 麦秋

麦秋 家の裏で秋播きの小麦の刈り込みが始まった。7月末から8月、よく乾燥した日が続いたので収穫は順調だ。けたたましい音と金色の穂のくずを撒き散らしながら畑の収穫は数時間で終わってしまった。有珠山の外輪から見下ろすと、伊達市から壮瞥町にかけて様々な色付いたパッチの風景が広がっている。この小麦はパン用ではない。パンを毎週1kgの粉で焼く私としては残念だ。

111 黒はすべてを

カシス 色の三原色を混ぜると黒に見えると言う。ブラックカランツはカシスという名の方が一般的で、ジャムやリキュールの名でよくレシピに登場する。今日我家で収穫のカシス、1.8kg。黒く輝くオニキス玉。その1/3量のグラニュー糖で煮て、たっぷりの軟らかなジャム(ピュレ)を作った。上出来のジャムと調理器具すべて深みを帯びたカーマインに染まった。驚いた。粒よりの漆黒の宇宙には溢れる カーマインレッドのパッションが包含されていた。黒は激情の色。

109 早生りんご「ツガル」

ツガル 7月も今日で終わり。このところの暑い日のせいで、リンゴも一回り大きくなった。去年まで虫食いばかりの収穫だったが、小さな実が付いてからの手入れと防除をこまめにやって見たら、きちんと結果が出たようだ。ここ壮瞥町は果樹の町。本気で教わろうとすると、プロの農家が何でも教えてくれる。お陰で我家の庭も果樹がいっぱい。商品にするわけではないから、姿かたちは二の次で、「味が勝負」に賭けて見る。

107 情熱の味

ラズベリー 北海道がラズベリーに適した土地だと知ったのは実際に栽培してからだ。到る所からシュートが伸び出す。今年もたっぷりと収穫した。花托が茎に残り、奨果のみが掌に転がってくれる喜びはラズベリーの真骨頂。明るい透明感のあるルビー色。陰にはパープルの哀愁を滲ませる。一瞬、動物的なアロマを感じさせるその味は、紅い血潮のブラッドレッドなのかもしれない。口に広がる血の滴りは愉悦と安息をもたらす。

104 ジューンベリー

ジューンベリー  生垣の上に広がる灌木としてジューンベリーを見つけ、この春植えた。5、6本の株立ちで細い花弁の白い花が咲き、葉も爽やかで気に入っている。花が咲いた分実が付き、青く硬かった実が赤くなり黒紫色に色付いて、口にするともちっとした濃厚な旨味が口の奥歯あたりに広がる。英名はJuneberryだが当地ではJulyberry。-30℃まではOKとテキストには書いてある。有りがたい植物だ。画像の向こうは昭和新山と有珠山。

103 サルナシ

サルナシ 半日陰の中にひっそりと咲くサルナシの花。俵型の実を切ると果汁あふれる云わずと知れた無毛、フィギュア版のキウィフルーツ。毛のある中国産のシナサルナシ(Actinidia chinensis)がニュージーランドで品種改良され彼の国の国鳥の名をもらい世界へ羽ばたいた、いや転がり広がったのがキウィフルーツ。昔から山では人気の奨果で子どもらは舌が荒れるくらい食べたものだ。

101 桜桃鴉

桜桃鴉 今年のサクランボウは少し実が付いた。前の4年間はだめだった。果樹の町壮瞥町全体が同じ傾向にあるらしい。寒く長い春だったので不安だったが、少しの収穫は望めるようだ。と思っていたら近くに住む鴉がやってきた。スズメもたくさんやってきて連中は食べ放題。美味しいとこどりの食傷の果て、「落果狼藉」散らかし放題の始末。自然は思うように行かないところが面白い。

100 撹乱の果てに

ジギタリス 家から見える草地の向こうの土手に赤い花が咲いていて、行ってみたらジギタリスだった。どこからか種子がやってきて野生化している。手前はよくあるフランスギク、向こうの白いのはマツヨイセンノウ。近くにはビロードモウズイカも長い穂を付ける。イギリスのごく一般的な図鑑を開いて見たら全部当たり前に載っていた。北海道での外来植物の蔓延は相当なものだ。一度野生化した生物はまず駆逐できない。由来はどうあれ可愛いね。嫁に来たら家族だよ。