440  野武士と菫

サケとスミレ

伊達紋別付近の海岸で釣り上げたという二匹のサケはそれはもう見事なものだった。70㎝を優に超す成熟したオス鮭で、少しブナがかかってはいるが精悍な野生の風貌だ。湾曲した牙は猛き血の色、小さな漆黒の瞳はひたむきな情熱の証し、おぬしは海の野伏せりだ。 芝生に続く敷石にドテッと置いたら、丁度そこには遅れ咲きのスミレが一つ咲いていて、海と庭の晩秋の奇妙な組み合わせが意外によく似合った。袖すりあうも多生の縁か。こうやって季節と命はないまぜとなって廻り、次の春へと引き継がれる。

 

430  トドノネオオワタムシ

トドノネオオワタムシ山の黄葉が進んで、ふっと気温も緩み風が凪いだとき、いつものように雪虫に出会う。今日の裏庭は雪虫の吹雪のようで、ユキムシスープの中にいるようだった。どうしてもふわふわ飛ぶ雪虫を画像に収めたくて重いカメラを覗きながら700枚ほど写して使えた2枚がこれ。前肢を高く掲げ後肢をそろえ、凛と矜持を持って飛んでいる。心もとなくあやうくも見える雪虫の正体は小さくも強かな生命体だった。標準和名はトドノネオオワタムシ。ヤチダモなどの広葉樹とトドマツを宿主として移行、変態と単為生殖を繰り返す。いのちの複雑さと進化の妙である。生活史は北大の河野弘道博士により明らかにされた。

河野博士は縄文遺跡の貝塚をアイヌ儀礼の「物送り場」と考えたことでも知られる。これは現在の縄文文化を考える基本理念ともなっている。伊達市噴火湾文化研究所長・大島直行氏によるブログ、「縄文へのいざない」参照。http://jomon-heritage.org/blog/kouza/224

427  秋サケをもらった

腹子の入ったサケ知人からサケをもらった。この時期、北海道の海岸ではごく当たり前にサケが獲れて店頭にもよく並ぶし、一匹まんまのやり取りもよくあることだ。上物のサケで75cmの堂々たる体躯。腹を割いたら立派な腹子が1kg近く採れた。腹子はガーゼに包み味噌漬けにすると素晴らしく旨くなる。イクラを作る今回はばらばらにして醤油味のイクラにする。もちアミの上で揉むか箸でしごくとほぐれる。サケの卵一粒が一匹の命、丈夫に出来ている。塩水で洗い、醤油とほんの少しの日本酒をかけ、たまに混ぜながら冷蔵庫に数日保管すると出来上がり。白い飯に合う、酒に合う、サラダにも。冷凍も可能だ。もちろん身の方も楽しむ。皮は滑るので軍手を着用。頭をとり、腹ビレのあたりで上下に分け、それから三枚にすると仕事は簡単。塩を振り身の水分をペーパータオルと新聞紙に吸いとらせ、あとは焼いても、煮ても思いのままだ。ただしイクラの入っている雌の味は一段落ちることを付け添える。

 

424  室蘭層の断崖

マスイチセトマリ室蘭の絵鞆半島は港湾部と太平洋に面する外海とではその風貌を異にする。ここは増市浜。アイヌ語のマスイ(カモメ)チセ(家)トマリ(入江)が語源だ。半島の基盤となる白い崖は500-300万年前の海底火山の堆積物。下の浜の岩は象岩。向うに新しくできた栽培漁業センターの防波堤だ。入江は埋められ岬はコンクリートで囲まれる。昔からの自然環境を壊してはいけないのに。

395 この100年と次の100年

白鳥大橋展望広場公園室蘭、祝津(シュクズシ)の海水浴場跡へ出かけた。いまでは「足湯」ほどの水遊び場しか市民に残されていない。近代的な白鳥大橋を得た半面、失ったものも多い。遠浅の砂浜で「シクトッ」と呼ばれていた100年前、橋脚の向うの円い丘は草原で繋がった陸繋島だった。港の開かれたトキカルモイ(チカの入江)からオハシナイ(幣場の川)を通り、ポロシレト(大岬)のアルトル(向う方)の岬だった。先住民の祀り事の場だったと聞く。「白鳥大橋展望広場公園」という荒れた公園。コンクリートと鉄の100年持たない橋が白く光っている。

386  有珠火山があって

佐藤錦初夏の北海道太平洋沿岸には海霧が湧く。海際から十数kmの、ここ壮瞥の町は有珠山が衝立となって噴火湾からの海霧はやってこない。有珠火山あっての果樹栽培地帯だ。地形の少しの違いが豊穣をもたらす。ブドウ、洋ナシ、プルーン、サクランボウ。リンゴに到っては三十数種類が栽培されている。わが家の古いサクランボウの樹からの今年最後の収穫がこれ。大地に乾杯!!

374  海霧(ジリ)の本体

ジリ伊達の海から噴火湾の向こうに渡島駒ケ岳が見える。右の尖ったピークが剣ヶ峰(1137m)。手前に海面から200m程の厚さの層状の雲。これが海霧(この辺りでは昔からジリと呼ぶ)の本体だ。沖合は強い東風で白波が見える。太平洋(画面左方向)からの「ヤマセ」に近い冷たい風が吹いている。室蘭あたりは霧の中か。遠く霞むタグボートはマストが赤いから「とうあ」か「摩周丸」だろう。北の海の典型的な様相だ。

355  函館市に応援を

大間原発津軽海峡フェリーで函館へ。斧の形の下北半島の刃のあたり、仏ヶ浦の沖から建設中の大間原発のクレーンが見えてきた。遠目にも巨大な工事現場だ。豊かで上質の自然の残っているところを狙って、開発と称して巨大開発の手が伸びる。まして原発。日本は火山と地震の国。大陸の安定した地盤とわけが違う。電源開発はひっそり進めてきたが対岸の函館市が工事差し止めの訴訟を起こした。頑張れ函館。

353  旨いもの

シロガイ金沢に来ている。金沢漁港の「いきいき魚市」でシロガイとホタテを見つけた。ひときわなつかしく美味そうだった。市民の台所といわれる近江町市場でも毛ガニとともに名脇役だ。藩政時代から300年近く続くこの日本有数の市場で、ここの鮮魚や金沢野菜、名物総菜と肩を並べて、引けを取らぬ北海の味だ。すべてバターにあう、ガーリックにもオリーブオイルにも。パスタにいいぞ。

350  岬の色

アルトリ岬落ちる日を追って車を駆ってとうとう海まで来てしまった。見ている間に日は落ち、茜色の空と海だけが残った。手前の黒い岬はエントモ、その向こうの黒い島のようなのがアルトリ岬。福田火山マイスターのネイチャーハウスがつけ根に小さく見える。雪を残し蒼く険しく海に落ち込んでいるのが礼文華峠から延びるイコリ岬。それから写万部山。いくつものアイヌ民話を乗せて蒼く闇が迫る。