189 洒落者アカゲラ

洒落者・アカゲラ キツツキは啄木鳥と書かれる。啄は「啄ばむ」ついばむ=食べるの意味だ。学名はDendrocopos major でヨーロッパからアジアの寒冷地に分布している。 Dendrocopos は植物をつつく、 majorは大きいの意味で、コアカゲラ Dendrocopos minor に対応し命名されている。裏庭のサクランボウの古木にやって来る後頭部が派手なスカーレットの飾り毛のある雄だ。樹を叩く時の強力な支えとなる、黒い燕尾服の下の腰回りも雌雄そろって派手なこの色だ。

 

181 ハシボソガラスの雌雄識別

ハシボソガラスの嘴 数年来観察中のハシボソガラスのつがいがやってきている。左の個体は雄と思っているのだが、一回り大きく頭の形も異なって見え、嘴の先がより鋭く下に曲がっている。雌雄の正確な判別はできていない。雌雄のハシブトガラスでの頭の形状の違いの記録を読んだことがある。育雛時の行動にも雌雄の差が有ると言う。あと半年待って雌の腹の「抱卵斑」の確認を待とう。彼らは魅力的で面白く、分からないことだらけだ。

179 ホタテを食べる

Patinopecten yessoensis 北の海の冬季代表は何と言ってもホタテ。噴火湾で養殖され、4~5年物が出回っている。英名 Scallop で総称される Pectinidae の中でも特筆される食材。まして種小名 yessoensis は蝦夷地のこと。ならば北海道人としては誇るに値するまさしく自慢の逸品だ。

写真のローズマリー側から左へ、外套膜、鰓、右外套膜、閉殻筋(貝柱)、中腸線。いずれも食感、味に際立つ個性がある。大きな貝柱の横に付いている小柱(写真左上)は殻を閉じっぱなしにする平滑筋からなる補助閉殻筋で、コリコリしたなんともよい食感を持っていて、私の最も好きな部位だ。緑褐色の中腸腺は肝臓の働きを持ち、貝毒などをため込むことがあるので通常は食べないが、なかなか「濃い」レバー味が有ってこれまた旨い。ローズマリーの右にあるのはボイルした卵巣で、精巣は白みを帯びる。

乾物の貝柱は中華料理では世に聞こえた名品で、外貨獲得のお役に立っているが、われわれが日常手にするホタテは、採れたての絶大なる美味しさがあるうえ、食材としての使い勝手や値段もお手ごろで、貝柱の刺身、殻つきのバター醤油焼き、炊き込み飯などお馴染みのメニューにおさまっているようだ。だが、産卵期(春)前のたっぷりと太って豊潤な旨さの満ちた生殖巣や、外套膜の濃厚な食味は主役たる貝柱に負けない逸材である。鮮度の良いホタテが入手できることを最良の武器に、その風味を生かすことが出来れば、濃厚ながら穏やかな味わいは他の食材や調味料、ソース類との相性も良く、多様な料理へと進化できよう。現地人たるもの、この卓越した可能性を眠らせてはならない。

175 風に吹かれて

凍れるハクチョウ 洞爺湖、北風岬でこんなのに出くわした。北風に舞い上がった飛沫が凍てついてたまたたまこんな形に。自然の妙などとは言わないが、風に吹かれ、鼻水を凍らせながら気の向くままに歩いていると何かに出会う。温室住まいからは何も生まれない。季節は冬。ごく当たり前の季節の経過を皮膚で感じて初めて「生きている」証になる。書を捨てよ、凍れる野へ出よ。

170 過冷却の海

伊達新港 空っ風で体感温度は-10℃以下。釣り人のタックルバッグには40cmの綺麗なアイナメ(アブラコ)が1尾入っていた。ここは減少する漁獲量を確保するために噴火湾につきだして作られた、出来たての伊達新港。こうやって浅海は隔離され埋められて、祖先から引き継いだはずの美しい海はさらに遠くなる。冷え切った体で帰路についたが、車の旧式のナビには遥か海上を走った痕跡が残っていた。

166 凍てつく

洞爺湖の釣 12月になって洞爺湖の釣りは解禁となった。ヒメマス、サクラマス、ニジマス狙いで、立ちこんでのフライ。見えるだろうか、ラインが昭和新山の上でループを描き、有珠山山頂、有珠新山を絡め取るように流れている。釣れると大物、ひたすら竿を振る。1投、2投、キャスティングは続く。悠久の大地と清冽な水。やがて釣る人も景色にとけ、静かさの中で時はゆっくりと凍りついてゆく。

163 マントの中で

Rhinolophus sp.  近くの廃坑でコウモリを見つけ、研究者に尋ねたら、キクガシラコウモリ類 Rhinolophus sp.ではないかという。驚いた。一度出会ってみたかった。オオコウモリの飼育に係わったことがあるし、アブラコウモリならよく知っている。キクガシラ類はほかのコウモリ類とは眷属を異にし、ひと際存在感のある御面相をしている。いまは狩衣に身をつつんでの冬眠中のこととて寝顔も拝せないが、春を待って、すっぴんの美形と出会いたいものだ。

162 斑猫 ハンメウ

メノコツチハンミョウ シナモン色のミズナラの葉の上に光るものを見つけ、眼を近づけて見たらなんとメノコツチハンミョウ。10月の中島探索会では毎年出会っていたが。カンタリジンという強い成分を持ち、昔から「斑猫」の名で漢方の世界では隠然たる幅を利かせていた。だが分類上のハンミョウは全く別のグループで薬効はなく、成分と名に混乱がある。かつて日本薬局方にも載っていた薬品で、朝鮮王朝時代劇ではストーリーを進めるキーポイントの毒薬として幾度か登場した。

154 痩身のつわもの

オツネントンボ 天井のあたりをひらひら飛ぶものがいる。よく見るとオツネントンボだった。このところ冷え込んできたので、鉢植えを部屋に入れたがそれについて来たらしい。このトンボ、冬の氷点下-20℃を次の春まで持ちこたえる。このまま室内で過ごさせようかと一瞬考えたが、窓を開けて外へ追い出した。きっとどこかで春を迎えるだろう。つま楊枝にも満たない細身だがピンと伸びた翅と胴、そして何よりもこの決意を込めた眼を見ればそう確信できる。

151 往く秋に

アカゲラ コンと小さな音がして、ガラス越しに下を見たらアカゲラが落ちていた。ガラスに映る碧い空を飛ぼうとしての、突然の衝突事故。そーっと静かにしていれば起き上がって事なきを得る場合もあるのだが、今回はそのまま動かなかった。可哀そうなことをした。秋も深まって黄金色のギボウシの葉の上、赤い飾り羽の小粋な姿がつらく切ない。また一つ、いのちを乗せて秋はいってしまう。