440  野武士と菫

サケとスミレ

伊達紋別付近の海岸で釣り上げたという二匹のサケはそれはもう見事なものだった。70㎝を優に超す成熟したオス鮭で、少しブナがかかってはいるが精悍な野生の風貌だ。湾曲した牙は猛き血の色、小さな漆黒の瞳はひたむきな情熱の証し、おぬしは海の野伏せりだ。 芝生に続く敷石にドテッと置いたら、丁度そこには遅れ咲きのスミレが一つ咲いていて、海と庭の晩秋の奇妙な組み合わせが意外によく似合った。袖すりあうも多生の縁か。こうやって季節と命はないまぜとなって廻り、次の春へと引き継がれる。