894 愛しのキタキツネ

愛しのキタキツネ庭を横切るキタキツネ。イヌでもないキツネでもない、そう思ったよ。でもお前はキタキツネ。疥癬にとりつかれ尾羽打ち枯らし、食い物を探して日を送る。自慢の太い尾はどうした。肩から胴、流れる樺色の毛並みはどうなった。血は滲み、瘡蓋は雨に溶けて体を黒く染めた。痩せた体を引きずって、野生の魂は何処へ向かうのか。温かな春の風の日に、安らかな眠りを。私のキタキツネ。