439  オンコの実

オンコの実秋が深くなりすべてが色褪せてゆく中でイチイだけは健在で、葉は深緑に実はいよいよ紅くみえる。実を口に含むとネットリ、ツルリと甘みが広がる。種子だけは苦いし有毒成分を含むので飲み込まない。北の地のこの季節の恩恵で、通りすがり、他人の生け垣であってもついつい一ついただいてしまう。どういう訳かこのイチイの樹をオンコという。アイヌ語では「クネニ(弓・になる・木)」だという。太古の昔からヒトはこの実の甘さを身近に味わったのであろう。舌の上でつるりと甘いたびに気持ちだけはいにしえ人になる。