292 空蟬

エゾゼミ秋の陽をうけ緋色に輝くツタウルシに、エゾゼミの抜け殻が雨と風の中、落ちもせずしがみ付いた。暑かったこの夏のいのちの名残り。現人(うつしおみ)が転じて「うつそみ」となったというが、言の葉は生きもの蝉の抜け殻と結びついたあたり、たまゆらの時の流れをしみじみ感じる。夏の朝、薄衣一枚を残して17歳の光源氏の前から姿を消した空蝉は、自らの矜持を捨てはしなかった。