食膳の皿の上で、「ワレカラ」に出会った。この季節のありがたい御到来物のホタテの稚貝を茹でたら、混じっていたムラサキイガイと一緒の御登場と相成った。ワレカラは甲殻類で膨大な種群を持ちワレカラ科を構成する。砂浜でとび跳ねるヨコエビと近縁である。海藻や定置網、ホタテ養殖の籠に群がって生活している。極端に進化・退化した形態で、言うなれば昆虫のナナフシのようにそれぞれのパーツが特殊化している。ポパイのような腕もある。つぶらな眼もある。もちろん食べられるし、佃煮にすると美味しいはずだ。アミのように。
清少納言の枕草子、第41段 「虫は 鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。・・・」とある。高校の古文の時間に習ったのを思い出した。調べ直したら、まさしく生きもののワレカラ。清少納言の「われから」は藻塩や海藻の乾物からの由来だったのだろう。よく知られた段の中で、趣がある日常の虫の一つとして顔を出している。ワレカラをよく目にする生活が平安の時代にはあったのだろう。雅な和歌中心の時代に、さらりと随筆風に登場させる感性とその文章はじつにリズミカルな今風で、1000年前のものとは思えない。その後も、この奇妙な生き物は新古今和歌集などいくつかの書物に、御目見得している。昔の人は自然そのものをよく見ていた。そのあたりぜひ少納言にお会いして、「われから」の話?など、夜の明けるまでしてみたいが、残念ながらそのような才覚は私には無い。「いとすさまじ」などと書かれておしまい。却下。