35 瞳の向こう

瞳の中 輓馬(ばんば)を引き取り休養させている家がある。飼育小屋の外、雪の野面を見ながら佇む馬は見事に大きい。随分昔、荷車で重い石炭を運ぶ馬が、凍った坂道で転び、立ち上がれなくて馬方からひどい扱いを受けていたのを思い出す。激しく息を吐き、大きく見開いた白い眼を、まだ覚えている。私に近づいてくる馬の瞳の中に私が映っている。眼の中の冬景色は青く寒そうだ。