58 時を撃つ

ミズキのパチンコ ミズキは昔から身近な木だった。何と言っても形がいい。直立した幹、小豆色も艶やかに水平に広がる枝。昔、親から頼まれ繭玉の枝にも伐ったが、Y字型の枝でパチンコを作るのが一番だった。なんでも標的にした。廃屋の錆びた煙突、空き缶、野犬も撃った。今、この歳にして肥後の守を握り、糸の端を咥えパチンコを作る。完成した武器を手に春の野に出た。弾は金魚鉢の小砂利。が、撃つものがない。風が吹く。